英国のマン島から日本を見ると

S37年卒 吉見隆一郎

英国とアイルランド共和国の間のアイリッシュ海に浮かぶちっぽけな島(Isle of Man )は毎年6月初めの2週間が島を挙げてのお祭りになる。いわゆるマン島TTフェスティバルという、オートバイのTTレースのシーズンである。

このTTレースを目当てに毎年何万人という観光客が押し寄せる。たかがオートバイレースですが変に商業化してなくて、優勝しても大した賞金が出るわけでもないが、それでも命を懸けてスピードを競うところが受けるのか、今年で丁度100周年目になりました。

3月下旬ごろ震災の情報に混じって、ひょんなことから日本のチームがTTレースに出ると言う話が伝わってきました。久しぶりに観戦にゆくかと思って詳細を問い合わせたら、電動バイクレースとのこと。

尚更面白そうなので更によく聞いたら技術トラブルで困っている様子で、4月初めにもかかわらずまだモーターが廻らないという話を聞かされるはめになりました。

更に詳しく聞くうちにどうも日本にはちゃんとできるノウハウがなさそうだと判り、未完成のままで送って貰い英国で電動バイクの実績のある業者を当たり、ノウハウの提供を受け何とか走行テストを済ませてマン島に送り込んだのが5月22日、レースの2週間前でした。

わが社の前で日本からのメカと一緒に

日本のTeam Prozzaは初参戦なのでとにかく完走だけを目的とした戦術で、バッテリーを温存した走りでそれでも容量の97%を使い切ってやっとゴール出来ました。

5台完走した中の5番目でも入賞は入賞で、久しぶりにエキサイトしました。

9台中4台がリタイヤーという過酷なものであると同時に、後まだ3台出走予定があったのですがマシントラブルで本番出走を諦めるほど、技術的にも未完成の部分が多いレースの分野と言えるでしょう。

電動バイクというのはバッテリーとモーターをコントローラーで繋いで制御して走らせるだけのものです。原理そのものは昔からあります。原始力とでも言いましょうか。しかしこれをレーサーに仕立てると言うことは一桁も二桁も大変な話になります。

バッテリーはリチウムイオンタイプ、モーターはDCモーターが主流です。コントローラーはノウハウの固まりみたいな物で、出しているニッチメーカーは何社か有ります。これらの主要コンポーネンツは市場で手に入るものは韓国製のバッテリー、インド製のモーター、アメリカ製のコントローラーなどが主体であり、残念ながら日本製のもので(日本のメーカーのもので)レースに使えるものは皆無です。

技術先進国と言いながら誠に寂しい限りです。

レースは走る実験室と言われるように、新技術の開発にはもってこいの場です。出走を取りやめたドイツのチームのマシンにはシーメンスの新開発のモーターが使われているらしいとの情報もありました。ACモーターでしょう。

日本のチームProzzaというのは名古屋の電動スクーターの会社「ProStaff社」がスポンサーをしているチームですが、日本の名だたるモーターメーカー、バッテリーメーカーにコンポーネンツの提供を頼んだけど軒並み断られたと言うことでした。ハイブリッド車などに使っている技術はあるが、レース用のものを作る技術はない。開発費を負担すれば考えてもよいがと言われるのが関の山だったそうである。

要はやる気がないということでしょうか。やる価値が無いとの認識なのでしょうか。そうやっている内に韓国、インドはおろか中国にもやがて抜き去られてしまいかねない気がします。

そういえば昔本田技研の本田宗一郎社長が「レースは走る実験室」といってマン島へ乗り込んだのが日本のオートバイ産業発展のスタートだったように思います。50年前の日本にはそんな意気込みが至る所にあったように思います。

世界に挑戦という為には日本の知恵を結集する必要があると思うし、そういう可能性を探ってゆく必要があると思っているわけです。なんとなく沈滞しているムードに風穴を明けねばならないと思います。その為には世界に目を向けることです。(そうなれば首相の足を引っ張ることしかしない社会がもっと変わるのにとも思ったりします。)

産学協同でもっと世界的な視点で物事を考えるべきだと思います。学生や研究者にもっと世界と鍔競り合いをやってもらいたいと思います。技術大国などと言う地位は一晩でひっくり返ると思わないといけないでしょう。

産学協同での「チャレンジ」が今こそ必要だと思います。

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[ ご寄稿いただいた文章より抜粋。全文は次号(2011)プロトスに掲載予定 ]